平成から令和への「ゴールデンウィーク」
皇位継承により、2019年の「ゴールデンウィーク」は、平成から令和への時代の移りかわりとともに、官公庁や週休二日制の企業を中心に、極めて稀な「10連休」となった。医療サービスなどの社会的インフラの供給体制や、サービス業ではこの「10連休」をどう乗り切るかというさまざまな問題に直面するという面もあったが、もともとゴールデンウィーク(G.W.)はレジャーに出かけやすい時機でもある。高速道路がどれほど渋滞したのか、鉄道利用者がどれほどだったか。観光立国政策の下、訪日外国人観光客の動向に注目が集まるが、極めて稀な「10連休」における日本人の旅行動向はどうだったのだろうか。鉄道を中心に利用動向をみていきたい。
1.ゴールデンウィークの旅行推計
JTBは毎年、G.W.の旅行動向を公表している。この動向調査は1969年から継続的に調査され、2019年で51回目の調査である。4月25日~5月5日の11日間出発の1泊以上の旅行(帰省を含む)に出かける人がどれほどいるのか、平均費用はどれほどか、アンケート調査、JTBグループの販売状況、航空各社の予約状況、業界動向などから推計した調査である。
このJTBの調査に拠れば、2019年G.W.の国内旅行人数、海外旅行人数とも過去最高を記録した(旅行人数は延べ人数)。国内旅行人数は2,401万人(対前年比1.1%増)、海外旅行人数は66.2万人(同6.9%増)となった。2014年から直近6年間のG.W.国内旅行人数の推移を図1に示す。
2016年から3年間は0%台の伸び率だったのに対し、2019年は1.1%増とやや伸び率が大きくなった。人口減少局面に入っている日本で、国内旅行人数が増えていること自体、やや驚きである。確かに景況感・経済指標の伸びが大きな要因となるが、極めて稀な「10連休」が国内旅行需要をさらに押し上げたことは間違いないだろう。
一方の国内旅行消費額(図2)は対前年比2.8%増の8,836億円を記録し、伸び率だけを比較すると国内旅行人数の伸び率よりも大きな伸び率となった。この調査結果から国内旅行では一人あたり旅行消費額が増えていることが読み取れる。このJTBの調査でも国内旅行平均費用(交通費・宿泊費・土産代・食費等)が36,800円、対前年比で1.7%増という結果も示されている。
海外旅行は旅行消費額で対前年比8.6%増、平均費用(燃油サーチャージ・旅行先での交通費・宿泊費・食費を含む)では268,000円と1.5%増となり海外旅行人数の増加(6.9%増)が海外旅行消費額を押し上げた結果となった。
『日本経済新聞』2019年4月20日の記事では、国内線航空各グループの予約が好調で、全日本空輸グループ19.1%増、日本航空グループ26.2%増、予約率も対前年比で両グループとも10ポイント以上伸び、ここ10年で最高の予約率で、国内長距離路線が人気だったという。また、同記事では海外旅行では欧州への旅行者が伸びているが、その伸びが旅行価格押し上げにつながり、比較的安価なアジア方面への予約にシフトしていることも報じた。
「10連休」による国内旅行全般への影響は、(1)国内旅行人数の増加よりも国内旅行平均費用の増加に影響が出ている、(2)国内旅行消費額の増加は「10連休」による価格高騰だけでなく、例年のG.W.では行けない長距離旅行による消費額の増加が押し上げている可能性が高いことがわかる。
2. JR旅客各社の利用状況の公表
前述した『日本経済新聞』4月20日付記事では、「JRグループ6社では新幹線や特急列車の指定席の予約席数が6割増えた」と報じた。「6割増」という数字の大きさに驚きを隠せなかったが、私は「この10連休は鉄道、とくにJR旅客6社には大きなプラスの影響になる可能性が高い」と予想した。また、JR東日本やJR東海が、新幹線の臨時列車を追加して運行すると発表したこともあり、これまでにない利用者数の多さになるのではないかとも考えた。
JR旅客6社はG.W.が明けた5月7日に「ゴールデンウィークの利用状況」を一斉に公表した。すなわち「結果発表」である。これも前述のJTBと同じく長年公表されているもので、テレビ・新聞などメディアのニュースとしても報じられる。特に業界紙でもある『交通新聞』では、5月9日に一面トップで「輸送人員は統計のある2001年以降過去最高を記録」と詳報した。
ただし、これらの利用状況の発表は年どしにより「前年同日比較」だったり「前年同曜日比較」だったりして集計の対象となる期間がまちまちであり公表資料からは3年以上をまたいだ比較ができない。よって2019年と2018年の単純な前年同日比較しかできない(対象期間は4月26日~5月6日)。
まずは、新幹線である(表1)。各新幹線とも軒並み対前年比110%以上を記録し、北海道新幹線では1.5倍に届くほどの伸びを示した。また、もともと16輛編成で輸送力が大きく、運行本数も多い山陽新幹線「のぞみ」で130%を記録するなど、各新幹線とも対前年比で利用者数を大きく伸ばした。
また、在来線特急等でも、新幹線と同じように軒並み前年比を大きく上回った(表2)。ただし、注意深く見ていくと、JR北海道・JR四国・JR九州のいわゆる「三島会社」の伸び率が、JR東日本・JR東海・JR西日本の「本州三社」の伸び率に比べて、総じて低かった。これは、地方部の人口減少(特に若年人口・生産年齢人口の減少)を示すとともに、地方部での高速道路整備が継続的に進み、在来線特急等でもなかなか利用してもらうこと(鉄道利用を選択してもらうこと)が難しくなっていることを示しているだろう。
また、平成から令和への移りかわりを象徴するようなデータも公表された。JR東日本が近距離きっぷ(交通系ICカードによる自動改札入場も含む)の発売実績も合わせて公表したが、JR東日本管内全体で104.2%だったが、東京駅では109%を記録したという。5月4日の即位を記念した一般参賀(皇居)には14万1,000人余が詰めかけた。東京駅の伸びがすべて一般参賀による伸びとは限らないが、平成から令和へという時代の節目を、鉄道からも感じることができるだろう。
JR旅客6社が公表した「おおむね2割増」というG.W.の利用状況は、G.W.前の予約状況ほど伸びなかったものの(単に予約を前倒しした人たちが多かった)、当然の結果ともいえるだろう。
鉄道各社の経営という視点に立てば、これらの鉄道利用が定期外利用であり定期券を利用している人からもそうでない人からも、運賃・料金の収入を得られることが鉄道会社にとって大きい。通勤定期券を持っている人には「10連休」によって定期券利用をしない一方、紙のきっぷや交通系ICカードのチャージ(電子マネー)を利用することから鉄道会社にはほとんど減収にならない点も見逃せない。ただ、普段の通勤ラッシュに対応した人員配置ではないG.W.ならではの人員配置に応じなければならないなど、単純な増益とはならない。なにより、鉄道現場の最前線で活躍する本学OB・OGを含む、多くの駅員・運転士・車掌、「ぽっぽや」が10連休できたのは稀だろう。
それでも、多くの鉄道会社にとって、極めて稀な「10連休」はプラスに作用したことだろう。
3. まとめ
極めて稀な「10連休」は、賛否両論あり、社会にさまざまな影響を及ぼしただけでなく、「休暇の取り方」「休暇の過ごし方」、ひいては「働き方」を考えるきっかけとなっただろう。余談だが、わたしが属する高等教育機関(大学・短大等)、特に私学では、この10連休を10連休できたのは極めて稀である。
さて、旅行状況、鉄道の利用状況から、極めて稀な「10連休」の私たちの動きをみてみた。今回取り上げなかった高速道路では、NEXCO3社・JB(本四高速)に拠れば、10km以上の渋滞が前年のG.W.期間比で68.6%増の553回発生したという。そのうち30km以上の渋滞発生は前年G.W.期間比で倍増以上の51回に上った。荒天が短く好天に恵まれた日が多かったことも渋滞発生回数増加の要因としてあるだろう。
来年、2020年は例年のG.W.に戻るだけでなく、東京五輪・パラリンピック開催に伴う祝日移動があり、今年との比較や事前予測が難しい年となる。
この「10連休」がどれほど日本の社会・経済に影響を及ぼしたのか、未知数である。それでも、「10連休」の前・中・後、どこかで旅行しているような姿が、これらの公表された数値から読み取れるのではないだろうか。
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